1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:22:56.60 ID:w59EDYN50
グラビアの撮影を終え、お腹が空いたと響がいうので
おれたち二人は事務所に帰る前に喫茶店に寄っていた。

響「なープロデューサー、自分友達欲しいぞー!」

注文したサンドイッチを口元に頬張りながら響は足をバタバタさせた。

P「友達なら既に事務所の皆がいるだろう。ん、貴音は友達じゃないのか?」

と、コーヒーを飲みながらおれはいった。

響「事務所の皆は友達というよりはライバルというか仕事仲間みたいなもんさー」

響「貴音は…友達以上の親友で、いちどぅし、だと思ってる」

P「仕事仲間でもいいじゃないか。一番の親友の貴音がいれば充分だろう」

響「仕事仲間は仕事仲間さ。親友は親友さ。自分、友達が欲しいんだぞ」

P「響は意外とドライだったんだな」

おれは苦笑して、かぶりを振った。

P「けれど友達は認識の問題だよ。響は単なる同僚だと思っても向こうは友達だと思ってるかもしれない」

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:25:35.37 ID:w59EDYN50
響「え…貴音は自分をいちどぅしだと思ってないかもしれないって事なのか

  自分、そんなの嫌だぞ!」

P「ええと、俺は逆の意味でフォローしたつもりなんだけど」

響「むぅ、友達は認識の問題って事は、どうしたら互いに友達だと言える関係って作れるんさ?」

P「それは時と場合に因るものなんだ」

と、いっておれはコーヒーを飲み干し、響を見てうなずいた。

P「仕事中は同僚だが休日は一緒にスポーツ観戦したり釣りに行ったりする。そういう関係は幾らでもある」

響「でも765プロの場合、休日が違ったりして時間が合わない事の方が多いよ」

P「芸能業界で働くと確かにそこらへんの調整は難しいだろうがね」

食事を終えた響は指についたトマトの汁をぺろりと舐め、おれの顔を覗き込んだ。

響「プロデューサーはさ、友達いるの?」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:29:15.76 ID:w59EDYN50
P「たまに高校の同級生と会って遊んだりはするよ。半年に一回か二回ぐらいだがな」

響「んー、芸能業界とかには?」

P「打ち上げの延長で休日によく顔をあわせる仲の良い相手はいるが

俺から見ても彼らから見てもどちらかと言うと同業種で働く朋友同士といったものだろう」

響「それって友達じゃないの?」

P「利害が一致している間はな。俺か彼らがこの業界から離れば連絡を取らなくなるだろう」

と、いってからおれは苦笑した。

P「確かにそうだ。似たような利益と損害を抱えている限りにおいて友達みたいなものだな」

響「なんだ、プロデューサーの方が自分よりよっぽどドライじゃないか」

と、響が笑っていった。そしてテーブルに身を乗り出して、おれに質問してきた。

響「ねぇねぇ、じゃあ765プロにはプロデューサーの友達はいるの?」

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:33:15.14 ID:w59EDYN50
P「うーん、そういやそんな事を考えたこともなかったな」

おれはそうひとりごち、考え込んだ。しばらくして、結論を出した。

P「いないな」

響「えっ、利害が一致している間は友達じゃないの?」

と、響がびっくりしておれの顔を見た。

響「プロデューサーとアイドルは同じ目標を目指すもんじゃないのか」

P「利害が一致していてかつ親しみを相手に覚える場合において友達といっていいだろう」

P「しかしプロデューサーとアイドルの場合は、どちらかというと上司と部下の側面が強い。

 俺はアイドルが映えるように手助けする存在で、アイドルは自分が映えるように動く。

 そして俺はアイドルが嫌がっている仕事をやれと指示しなければならない時もある。

 そんな仕事上のパートナーという意識があるから、友達とは言えないだろうな」

響「でもでも、オフに一緒に買い物に行ったりしているじゃないか! 貴音から聞いたぞ」

P「それは貴音の次の出演の服選びに付き合ったのと、貴音の気分転換になればと思ったんだ」

と、おれはかぶりを振っていった。

P「丁度、俺も休日だったしな。受け持つアイドルのメリットになると判断したんだ」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:37:23.87 ID:w59EDYN50
響「むー、なんかプロデューサーが冷たく感じるさー」

P「いやいや職業柄、アイドルと接するとそういう意識になるのは仕方がないだろう」

響「じゃあ、事務員の小鳥や同じプロデューサーの律子の二人は? 二人は友達?」

そういって、響はアイスコーヒーをストローで口に含みながら、上目遣いでおれを見た。

P「小鳥さんは、俺から見れば頼りになる職場の先輩といった感じで友達ではないな。

 律子も互いに仕事に関する連絡は取るけど、やっぱり同僚以上の感情はないかなあ」

響「ふーん、そうかー」

響はなぜかほっとした表情で、おれに微笑みを見せた。
そして何かに思い当たったような顔をすると、苦笑して、おれにいった。

響「一応聞くけど…社長はないよな」

P「ああ、ない」

おれは即答した。

P「社長は上司で、ホモだからな」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:40:49.72 ID:w59EDYN50
響「でもそれじゃープロデューサーも自分と同じように765プロに友達がいないってことだぞ!」

P「そうなるなあ」

響「それって寂しい事だと思わないか」

P「うーん、寂しいと思った事はないな。この生活に慣れてるし、いい職場だと思うからな」

響「そうか…でも自分は寂しいぞ」

ぽつりと響はいって、おれの近くまで顔を寄せてきた。
響の大きな青い瞳の中におれの顔が映っている。

響「な、なあ…プロデューサー。じ、自分と友達にならないか?」

P「響と友達に?」

と、おれは聞き返した。

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:45:13.54 ID:w59EDYN50
響「う、うん。休日とかに一緒に出掛けたり、相談に乗ったりして欲しいぞ!」

そういって、頬を微かに染めた響はおれを見つめた。

P「それなら今だってしているじゃないか」

響「ち、違うぞー。プロデューサーにも自分に心を開いて欲しいって事だぞ!」

響「プロデューサー言ったじゃないかー。765プロに友達がいないって。

  自分も友達がいないからプロデューサーと自分が友達同士になればなんくるない!」


P「友達ってなろうって言ってなるものなのかい」

と、思わず苦笑したが、ここでにべもなく要求を却下させるのは
おれと一緒に仕事する響のモチベーションを低下させてしまいかねず
また彼女の望みを叶えさせてやった方が仕事にもいい影響があるのではないかと
おれは思い直し、真剣な目でおれを見る響に向かって、ゆっくりといった。

P「ともかく分かった。今から俺たちは友達同士だ。よろしくな、響」

響「自分、完璧だからな! プロデューサーとは良い友達になれるさー」

そういって響は八重歯を覗かせて、おれに破顔した。

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:50:42.07 ID:w59EDYN50
おれたちは喫茶店を出て、事務所に連なる道を、並んで歩き出した。
その途上で響がやおらにおれを振り仰ぎ、いった。

響「でも、友達といっても何をしたら良い友達なのか、自分よく分からないぞ」

P「今までと同じじゃ駄目なのか? これまででも俺たちは良い関係だったと思うぞ」

響「それじゃ駄目なのさ。自分はプロデューサーに心を開いて欲しいのっ」

そういうと響は足を止めたので、響に歩調を合わせていたおれも立ち止まった。
それから響はおれに左手を差し出して、わずかに震える声でいった。

響「だから…ねっ? 手を繋ごうよ」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 01:56:14.03 ID:w59EDYN50
P「手をか」

おれがまず危惧したのは手を繋いで往来を歩くところを
マスコミに撮られてスキャンダルになりかねないということだった。
しかしおれが響のプロデューサーだという事は芸能関係のマスコミなら
周知のことであろうし、悲しい事に今の響はマスコミの追っかけの対象にされるほど
大衆的人気をさほど集めておらず、故にわざわざ記事にする物好きな記者もいないだろうが
情報がめぐまるしく消費される現代において、どこに耳目があり何が火種になるか
分からぬので、響にアイドルの自覚を改めて促す意味を込めて、

P「一応、サングラスをしたらな。今はいいけど、有名になったら無理だからな」

と、おれはしっかりと釘を刺してから、右手を響の手に重ね合わせた。

おれに手を握られた響の顔が一瞬綻んだが、あわてて鞄の中からサングラスを取り出して
装着するとおれににっこりと微笑みかけてから、上機嫌な様子で再び歩き出した。

響「いやープロデューサーと手を繋いで歩けるなんて友達になってよかったさー!」

P「友達同士って手を繋いで歩くものなのか」

響「いいのっ。それぞれの友達の形があるんさ。自分はこういうのがいいの」

と、おれを見上げた響は綺麗な八重歯を見せて、手をぎゅっと握ってきた。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:01:31.31 ID:w59EDYN50
P「事務所に着いたな。さて、もういいだろう」

響「うん…そうだね…」

名残惜しそうに響の手がゆっくりとおれの手から離れる。
手の平に残った温もりが何故か一抹の寂しさを感じさせるのに
おれは驚いたが無理に振り払い、事務所の扉を開けた。

P「ただいま戻りました」

小鳥「ん、二人ともお疲れ様です。冷たいお茶でも持ってきますからね」

部屋に入ってきたおれたち二人の姿をみとめ、事務員の小鳥さんが机から立ち上がり
ストッキングにぴっちりと包まれた肉感的な太腿を見せつけるようにして流し台に向かった。

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:07:09.49 ID:w59EDYN50
響「あっ、また見てたな! スケベ!」

小鳥さんの後ろ姿の下半身に気を取られていたおれの視線に気付き
響が怒気を含めた調子でスーツの裾を引っ張ってきた。

響「小鳥は友達じゃないってさっき言ったじゃないか」

声をひそめて、おれをなじった。

P「えっ。い、いやいや。友達じゃなくても目に入ったら見てしまうだろう」

と、おれは一瞬うろたえたが、響の心中を薄々ながら察すると
逆にいたずらっぽく笑いながら響に向き直り、ひそひそ声で訊ねた。

P「じゃあ何かい。つまり、友達だったら好きに見てもいいのかい」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:13:18.97 ID:w59EDYN50
響「えっ」

響がおれの反撃に目を丸くさせ、顔を紅潮させながらしどろもどろになった。

響「い、いや、自分のは小鳥ほど綺麗じゃないだろうしって何を言わせるんさ!」

P「確かに、小鳥さんと友達になれたらあの綺麗な脚をずっと眺めるのもいいかもなあ」

響「え……」

P「ははっ、まぁ小鳥さんは大人の女性だから見られてもどうということもないか」

響「……」

おれがそう冗談めかして笑うと、響はあからさまにおれを睨みつけ
そのまま顔をぷいと逸らして事務室のソファーに向かった。

うーん、響、友達だから見てもいいってのは、やっぱり何かが間違っているぞ。
と、響の背中を見やりながら、おれはそんな事を思い
次に響と話す時には一般的な友達の定義から教えてやらねばと
心に固く決めてうなずいた。

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:20:06.57 ID:w59EDYN50
入り口から離れて自分の机に座ると、おれは静かな部屋の中を見回した。

そういえば今日は竜宮小町と律子の4人はスタジオ収録日で
春香と千早は午前からレッスンに行っており他のアイドルはオフだから
珍しく事務所にはいつもの喧騒さがないのだ。

小鳥「はい、プロデューサーさんの分のお茶とお菓子ですよ」

P「あ、どうもありがとうございます」

冷茶を淹れてきた小鳥さんがおれの机上にお茶と和菓子を置くと
ソファーにいる響に方向転換する際におれに一瞬尻を突き出すような仕草を
しながら翻ったので思わずおれは小鳥さんの美しい尻のラインに見とれた。

そのまま遠のく小鳥さんの動く尻を眺めているとソファーに座る響の視線と
ぶつかったのでおれはあわてて目を逸らし冷茶を掴んで飲みはじめた。

がぶがぶがぶ。

小鳥「あら、外がよっぽど暑かったんですね」

と、戻ってきた小鳥さんが空になった茶器を見て、目を丸くした。
その背後の方では響が怒りの込めた視線をおれに向けていた……。

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:37:02.83 ID:w59EDYN50
P「なぁ、響。そろそろ機嫌を直してくれよ」

と、ソファーに移動したおれは先程から繰り返している言葉をまたいった。

響「ん? 自分はいつも通りだぞ」

そう響は言うが、口調がぶっきらぼうで顔を決しておれに向けずに
膝元に置いたファッション雑誌に視線を落としたままページをめくっている。

一時間後には響が今度出演するかもしれないCMの最終候補決めに局スタッフが
事務所に訪れてくるのである。そんな時にテンションを下げられては
相手の気分を害しじゃあ他の娘に回しますなどと言われ出演が白紙に帰されかねないのだ。

P「そういや俺たちは友達だったよな」

このままでは埒が明かないのでおれは戦法を変える事にした。

P「友達とはもっと…こう…楽しそうに話すもんじゃないのか」

するとページをめくる響の手が止まった。
これは取っ掛かりを得たぞとばかりにおれは畳み掛けた。

P「確かに、あれだ。その、俺も至らないところがあったよ」

P「でもそう突っぱねられると俺の方も何をしたらいいか分からなくなる」

P「そうなったらこれ以上仲良くすることも出来なくなっちゃうだろ?」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 02:58:34.42 ID:w59EDYN50
響「でも…」

響がようやく雑誌から目を離し、おれの胸元辺りに視線を這わした。
そして奥の方で作業をしている小鳥さんをちらりと見、小声でいった。

響「小鳥さんの方がいいって…大人の女性だからって…だから自分は」

P「いや、あれは友達とか関係なく見てしまうものなんだよ」

と、おれも小鳥さんの方を見、声をひそめて響に弁解した。

P「男ならなんとなしに目に入ってしまう時があるんだ」

響「じゃあ自分はどうなんだ?」

がばっと響が視線をあげて、おれの顔に真摯な眼を向けてきた。
話が何だかややこしい方向に行ってしまった。
と、おれは心の中で頭を抱えたが、そこは男手一人で複数人もののアイドルを捌く
プロデューサー業をこれまで務めてきた自負のあるおれだ。
おれは快活に笑って響にいった。

P「もちろん、響は綺麗だし完璧だから。今まで言わなかったが見入ってしまった事もある」

そして頭を掻いて恥ずかしそうにする男を演じながら目を逸らした。

響「そ…そうだったのか…」

隣で響がつぶやく。そしてしばらくして響はおれの服を掴むと、

響「…なぁ…プロデューサー。自分、膝枕してやってもいいぞ?」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 03:17:09.53 ID:w59EDYN50
P「えっ」

おれは思わずうろたえて、響の顔を見た。
しかし響の顔は真剣そのもので、無下な対応はとても出来そうにない。
響の担当プロデューサーとしても、一人の男としてもだ。

おれはやぶれかぶれとばかりに小鳥さんにも聞こえるように叫んだ。

P「あー! 外が暑かったから体がだるくて少し横になりたいなあ!」

P「響、膝枕をお願いできるか!」

そして小鳥さんを見ると、小鳥さんは驚いた様子でおれたちの方を振り返ったが
苦笑しながら、おれにうなずくと、また作業に戻った。
小鳥さんの作業する手が少し震えていたのは気のせいだろうか。

響は嬉しそうに膝元の雑誌を片付けると、脚を揃えて膝枕の準備を終え、太腿をぽんぽんと叩いた。

響「プロデューサーも疲れたんだな! 自分のここで休むといいぞ!」

おれは身体を響に近付けると、

P「じゃあ、ちょっとだけ休ませてもらうぞ。あとな、一時間後に打ち合わせがあるからな」

そういって頭を響の肌色の見える太腿部分に乗せた。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 03:29:08.23 ID:w59EDYN50
響「分かってるぞ。自分、完璧だからな。自分に任せておけば、なんくるないさー!」

P「ああ、その元気があれば大丈夫だ。完璧にやってくれると期待してる」

響「……」

響「なぁ…プロデューサー…」

P「ん?」

響「……」

響「さっきは…ごめんな…」

P「いや、いいよ。俺の方も悪かった」

そういって、おれは思わず苦笑した。
これでは友達どころか世界のどこかで今でも繰り広げられているに違いない
痴話喧嘩を終えたカップル同士の仲直りの会話みたいではないか。

響がおれの頭に手を乗せて、

響「ん? 何を笑ったんだ。プロデューサー」

P「いや、これだと友達どころか恋人同士みたいだなって」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 03:43:36.33 ID:w59EDYN50
響「こ…恋人…」

おれの頭に乗せた響の手がぴくりと動いた。

P「だって、そうだろう。普通の友達同士は手を繋いだり膝枕もしない」

響の体中を包む良い匂いに鼻孔をくすぐられながらおれはいった。

P「でもそれが響の一つの友情の在り方なんだろうな」

響「そ、そうさー! 自分は貴音に膝枕をしてもらったりしてるからな」

響の手がおれの髪をいじった。

響「これをされると気持ちいいんだぞ。だから自分はプロデューサーにもしてあげたいと思ったんだ」

そして響はおれの髪をやさしく撫ではじめた。

P「そうか。その気持ちは嬉しいよ。響…」

おれはうつらうつらになりながら響に感謝の言葉をかけた。
小鳥さんが作業をしながらちらちらと横目でおれたちを窺っている
光景に少しずつ黒の帳が降りてきた。
響のいい匂いに包まれ、やさしく頭を撫でられながらおれは眠りに落ちて行った。

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 04:04:00.58 ID:w59EDYN50
P「はい、どうもありがとうございます。響共々頑張らせて頂きます!」

CM出演が滞りなく決まり、おれはうきうき気分で
事務所を退出する局スタッフを玄関から見送った。
局スタッフとの打ち合わせに響はいつになく高いテンションで臨み
快活さをアピールしたのが彼の心を捉え
我那覇響こそCMのテーマのイメージに相応しいと褒めちぎられ
ついでにおれの手腕ぶりも褒められ最後にこちらこそ是非ともCM出演をお願いします
と固い握手をして去って行ったのである。

P「やったな! 響!」

局スタッフの背中が雑踏に紛れるまで見送ると
おれは響を振り返り、響に抱きついてポニーテールの髪型が
くしゃくしゃになるほどに頭を撫で回した。

響「ふ、ふふん! じ、自分に任せればなんくるないさ!」

響はおれに抱きつかれ、髪をくしゃくしゃにされながらも
顔を赤らめさせて嬉しそうだった。

響「なあ、プロデューサー。自分、何か褒美が欲しいぞ?」

おれの胸中で、響がそういった。

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 04:22:48.19 ID:w59EDYN50
P「褒美か。いいとも、いいとも」

おれは響から身体を離し、笑顔でうなずいた。

P「今日はなんだってするよ。どこへでも連れてって御馳走を食わせてやるぞ」

しばらく間を置いて、響がぽつりといった。

響「…じゃあ、今夜、プロデューサーの家に行って手料理を食べさせたい」

響「沖縄料理には自信があるから…自分、それを食べて欲しいなって」

響「プロデューサーには…自分の事もっともっと知って欲しいから」

P「沖縄料理か」

おれは響の提案に心臓をどぎまぎさせながら
それでも笑顔を崩さずにいった。

P「いいねえ! ここ最近食べてなかったからな! 久しぶりに食べてみたいよ」

響「うん…! 自分、頑張るから!」

沖縄の太陽を想起させるような響のまばゆい笑顔を眺めながら
おれは自身の鋼鉄の自制心がぐらつかないように
決して、響を傷付けるようなことはするなよ、クビが待っているからな。
と、内心で何度も繰り返したのだった。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 04:49:23.47 ID:w59EDYN50
P「おいおい、ちょっとくっ付き過ぎだって響」

響「んー? ねぇ、早くしないと、スーパーで買い物もしないといけないしさ」

P「わっ、わっ。それは言うなって」

事務室に戻ったおれが帰り支度していると既に準備を終えていた響が
おれの背中に体をくっつけながらぐいぐいと胸を密着させて急かすので
隣の机に座る小鳥さんがそれを見咎めないかが心配だったのだが
スーパーに関する響の発言によって遂に小鳥さんがおれを振り仰いだ。

小鳥「プロデューサーさん、スーパーで買い物とは何でしょうか」

取り繕ったような小鳥さんの笑顔がおれには空恐ろしく感じられたので
すぐにおれは笑って誤魔化す事にした。

P「あははははははは、いやあ響が沖縄料理を振る舞ってくれるんですって!」

小鳥「おほほほほ。そうでしたか」

P「あはははは。アイドルから手料理を振る舞えるなんてプロデューサー冥利に尽きますよ!」

小鳥「おほほほほ」

P「あはは…」

そして小鳥さんはえへんと咳払いすると太腿を組み合わせ
手を伸ばすとおれのネクタイをぐいっと引っ張った。
おれの目の前に小鳥さんの肉感的な太腿が飛び込んできた。

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 05:10:17.16 ID:w59EDYN50
小鳥「あの…プロデューサーさん。アイドルと仲良くするのは結構な事ですが…」

小鳥さんが太腿を組み替え、スカートの裾がちらりとめくれ上がった。

小鳥「この業界ではプロデューサーがアイドルに手を出す事は御法度ですからね…」

小鳥さんがまた太腿を組み替えたので、スカートの裾がますますめくり上がり
おれがもう少し身体を傾ければスカートの中身が見えそうなほどだった。

P「わ、分かっております。それだけは気をつけます」

おれは太腿から繋がる小鳥さんの絶対領域を見つめながら必死でそう繰り返した。
そして小鳥さんの顔がおれの耳元まで近付きおれにしか聞こえないような
微かな声でぼそりと呟くと小鳥さんはやっとおれを解放してくれた。

小鳥「じゃあ、今日はお疲れ様です。二人とも帰りに気を付けて下さいね」

笑顔で小鳥さんはそういって、再び作業に戻った。

おれと響は事務所を退出してスーパーに向かったが
その途上、おれの頭を支配していたのは小鳥さんの
『事務員なら…大丈夫ですからね』
という囁きだった。

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 05:35:26.48 ID:w59EDYN50
響「なぁ…プロデューサーってば!」

スーパーの中で響がおれの裾を引っ張り、注意を喚起した。

響「プロデューサー、さっきからぼーっとしてておかしいぞ。
  なぁ、豚肉と牛肉どっちが食べたいんだ?」

P「あ、ああ。そうだな。牛肉の方だな」

おれはあわてて牛肉を指差し、国産牛肉200gをカゴの中に突っ込み
ついでに豚肉100gも突っ込み、隣のゲージにある塩タレも掴んで入れた。

響「ちょ、ちょっと! 落ち着いてよ! プロデューサー!」

と、響があわてておれを静止し、おれを引き戻した。

P「えっ、ああ、すまんすまん」

しかし、おれは豚肉100gを戻す際に鳥肉100gの商品を見つけると
その肉を小鳥さんのむっちりとした太腿に重ね合わせてしまい
いつの間にかカゴの中は鳥肉でいっぱいになった。

響「………プロデューサー……自分が買い物するからな」

ついにおれはカゴを響に取り上げられてしまった。

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 06:01:14.56 ID:w59EDYN50
スーパーで買い物を済ませたおれたち二人は駅前でタクシーをつかまえ
運転手に行き先を告げた後はようやくおれも普段の平静さを取り戻していた。

P「響、さっきはすまなかった」

と、おれはタクシーの中で響に詫びた。

響「……プロデューサー、何を考えていたの?」

それまで響は加速していく窓外の景色を眺めていたが
おれを振り返ると、わずかに震える声でいった。

響「…小鳥の事を考えていたんでしょ?」

どきりとしたおれは思わず目を窓外の景色に逸らしたが
その反応が真実を示してしまっている事に気が付き
このまま何も言わないよりは潔く認めた方がいいだろうとすぐに腹をくくった。

P「…そうだ」

響「……」

響は押し黙ったまま、また窓外の景色に目をやった。
気まずい雰囲気が車中を支配し、おれたち二人は
目的地に着くまで一言も交わさなかった。

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 06:36:12.39 ID:w59EDYN50
P「ここが俺の部屋だよ、響」

響「……」

おれたちは未だに重苦しい雰囲気を脱しきれないまま
アパートのおれの部屋の前まで来ていた。

とにかくさっきは響に失礼な事をしてしまったんだ
なんとしてでも詫びて機嫌を取り戻さねばならない

そう思いながら鍵を開け、二人で部屋に入ると
玄関で急に響が大きく息を吐いて、おれに笑顔でいった。

響「ごめんなー! プロデューサー!」

P「えっ」

響「自分、ちゃんと料理作るからな! 家事も完璧だからプロデューサーは座って待ってていいぞ!」

P「響……」

響「台所はどこだ!? こっちの部屋は…ないから、あっちの部屋か!?」

靴を脱ぎ、先に廊下に上がると響は快活に振る舞いながら
レジ袋を抱えたままばたばたと部屋を移動した。

努めて響が明るく振る舞うのはおれとの食事に嫌な思い出を残したくなかった為であり
またこれから過ごす二人の時間をどうしても楽しいものにさせたいという
おれに対する響の優しさと思いやりからなのだろう。
そんな響のいじらしさにおれの胸は絞め付けられるようだった。

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 07:17:29.38 ID:w59EDYN50
響が台所で鼻歌を唄いながら料理している後ろ姿を眺めながら
おれはぼんやりと今日という一日を振り返っていた。


今日は何だか響に振り回されっぱなしだったな。
初めに友達になろうと言ってきたり手を握ってきたり
楽しそうにしていたと思ってたら急に黙ったり膝枕もしてくれた。
そして最終的にはこの手料理の提案だ。


しかし、今まで響がこんな風におれに接してきた事があっただろうか。
おれと親しく接すれば接するほど響のポテンシャルはさらに引き出され
逆におれが他の女性、たとえば小鳥さんを意識するのを知ると
いつもの快活さがたちまちに失われるのはどういうわけだろうか。


それではまるで、

響「プロデューサー! 出来たぞ~!」

P「おお、やっと出来たか! 美味しそうな匂いがするのをずっと我慢してたんだよ」

おれはにっこりと笑い、響の手伝いをする為に立ち上がった。

まあ、響と仲良くすればするほど力を発揮できるというなら
アイドルの操縦法を常に把握しておかねばならぬ
プロデューサーとしては願ったりかなったりではないか。

そして、おれは響がおれを好きではないのかという疑問を心の奥底にしまい込んだ。

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 07:41:19.29 ID:w59EDYN50
P「ンマァイッ!」


おれは響の作った『ゴーヤinビーフ』と名付けた手料理に舌鼓を打った。
まず見た目が素晴らしく、ゴーヤの分量が多すぎず少なすぎず
またゴーヤの苦味が丹念になされた下ごしらえによって最低限にまで抑えられ
かつそれが塩とレモンにまぶされた牛肉炒めと絶妙な相乗効果をもたらし
おれの口内を見事にとろけさせる逸品となっていた。


P「美味しい。美味しいよ、響」


白米と併せてむさぼるようにおれは食い、数度の御代わりを要求し
そのたびに響は

響「自分、完璧だからな!」

と、実に嬉しそうに御代わりをよそってくれるので

P「ああ。響は完璧だよ」

と、おれも響を称えながら二人で楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 08:36:32.79 ID:w59EDYN50
P「ふー、食った。食った」

響「プロデューサーが美味そうに食べてくれて…

  …うん…自分も頑張って作った甲斐があったさー!」

P「本当にありがとう。美味しかったよ、響。そしたら、そろそろ…」

響「あっ、そうだ。皿洗いもしなくちゃいけないな!」

P「あ、…そうだな。じゃあそれもお願いできるかな」

響「任せとけって! 自分、家事全般、何でも完璧だからな!」

そういって響が台所に立つと、おれは不安げに視線を時計に向けた。
時刻は既に夜9時を過ぎており、このままおれの家に居過ぎると
帰りがますます遅れてしまい、明日の響の業務に支障が出てしまいかねない。
今日契約したCM出演内容に関する打ち合わせが午前からあるのだ。

だからおれは響の背中に向かっていった。

P「なぁ、響。皿洗い終わったらな、駅まで送るからな」

P「明日は打ち合わせがあるから、今日は早く寝て準備しないとな」

響「……うん」

間を置いてそう答えた響の表情は皆目つかなかったが
皿洗いの動きでポニーテールを少し揺らした後ろ姿がおれには妙に寂しく見えた。

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 09:12:10.36 ID:w59EDYN50
アパートを出たおれたちは最寄り駅に向かって並んで歩き出した。

夜道は暗く街は静寂さを保っていたがおれたち二人の間にある雰囲気も
静けさそのものに包まれていてそれはおれの隣で歩く響から放たれていた。

おれと夕食を共にした時の快活さは今や失われ伏し目がちに歩く響につられ
おれもなんとなく黙ったまま響を駅に先導していた。


やがて、その沈黙を響の声が破った。


響「ねぇ…プロデューサー…また手を繋いでいい?」


昼の時と同じ提案だった。
おれは響がやっと口を開いてくれた事に安堵を覚え
すぐさまに笑顔でうなずき、いった。

P「おう、いいぞ。さ、こっち来て」

右手を伸ばすと響は左手をゆっくりとおれの手に重ね合わせ
おれに向けて少し笑顔を見せてくれたが、そこには昼に覗かせた八重歯はなかった。

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 09:46:24.73 ID:w59EDYN50
響「なぁ…プロデューサー…自分、時々嫌になる事があるんだ」

おれの手を握り、歩く響はぽつりぽつりと語り始めた。
おれは黙って聞いていた。

響「自分、完璧だと言い聞かせて、そう思ってるつもりでも」

おれは黙って聞いていた。

響「プロデューサーが他の女の子の事を見たり仲良くするのを見ると」

おれは黙って聞いていた。

響「胸がぎゅっと痛くなったりして…どうしようもなく不機嫌になったりさ」

おれは黙って聞いていた。

響「プロデューサーの事をもっと知りたい……そして自分の事をもっともっと知ってもらいたい」

おれは黙って聞いていた。

響「そう思ってプロデューサーと友達になりたいって……でも、自分、空回りばかりで…」

P「響!」

おれはそう叫び響を振り返った。
響は泣いていた。嗚咽しながら、響はいった。

響「それでも自分は…プロデューサーの事が好きで……好きでたまらないんだ」

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 10:38:24.63 ID:w59EDYN50
翌日、事務所に泣き腫らした目をした響が現れると
アイドルたちは響を心配して口々に慰めの言葉をかけたが
響はその都度に「なんくるないさ」と弱々しく笑いながら
理由を固く閉ざし無理に元気さを装おうとするので
さてはおれに原因があるのではないかと思い当ったアイドルたちが
矛先をおれに向け始めたのを見て「プロデューサーは悪くない!」と
響が大声で叫びトイレに駆け込んだので後に残されたおれたちは
重々しい雰囲気に包まれたが事情を薄々と悟っていた
小鳥さんだけがおれに妙に優しかった。


打ち合わせの時間が近付いたのでそろそろ事務所を出なければならず
おれは机から立ち上がりソファーに座る響に近寄り局に行くぞと告げると
響はぴくりと体を震わせ嫌と首を振ったがおれが何度かなだめつかせると
やっと決心したようでよろよろと立ち上がりおれの後を追ってきた。


局スタッフは打ち合わせの際に昨日とは比べるべくもない響の様子を
心配しCMの成功を危ぶんだがおれは撮影当日までにコンディションを整えさせますと
彼に頭を下げ仕事が身に入らぬ響の代わりに重要な事柄を幾つかをメモし
おれたちは局を丁重に退出した。


事務所から局に来るまでの間も局から出た後も響は一言も喋らなかった。
喋る元気さえもないようだった。まるでおれたちの間から一切の空気が奪われたようだった。

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 11:09:35.62 ID:w59EDYN50
その夜、おれは小鳥さんと共にたるき亭で酒を飲み

小鳥さんに勧められるがままに酒を早いペースで次々と空けた。

おれは飲みたかったし酔い潰れたがっていたのだった。

このもやもやとした気分を誤魔化す為に酒という手段におれは逃避していた。

たるき亭を出る頃には前後不覚になりおれは小鳥さんの肩につかまって

二人で送迎車が来るのを待っていた。

待っている間に小鳥さんが、あら、と道路の向こう側を見て何かを呟いたようだった。

なにかあった? と聞くと、いいえ、なんでもないのと小鳥さんは首を振った。

しかしおれは見ていたのだ。あのポニーテールの、後ろ姿は、響ではなかったか?

やがて送迎車が来たので、おれたちは乗り込んで、小鳥さんにおれの住所を告げると

そのままおれは眠り込んでしまった。そして、それから先の事は何も憶えていない。

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 11:44:44.52 ID:w59EDYN50
翌日、二日酔いでぐらぐらする頭を抑えながら事務所に出社すると
事務室に入ってきたおれの顔を小鳥さんが複雑そうな表情で見たが
すぐに事態の深刻さを伝える真剣な表情に変わると、

小鳥「大変よ。プロデューサーさん! 響ちゃんがアイドルをやめるって」

と、おれにそういった。

ともかくも緊急事態だから、と小鳥さんはすぐにタクシーを呼び
おれに響を説得しに行くように厳命を下した。

おれは響を説得するならおれではなく律子や社長の方がいいのではないかと
小鳥さんにそういったが、

小鳥「いいえ、プロデューサーさん、これはあなたにしか出来ない事なの」

と、小鳥さんはかぶりを振って譲らなかった。

やがて事務所の前にタクシーの到着を告げるクラクションが鳴ったので
さぁ行って、と小鳥さんに背中を押されたおれは事務所を出てタクシーに乗り込んだ。

響の家に車を走らせている途上、おれの携帯の着信が鳴り
応答すると小鳥さんからだった。

そして、小鳥さんは昨晩の出来事をおれに話し始めた。

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 12:21:58.56 ID:w59EDYN50
おれは響のマンションに着くとタクシーの運転手に樋口一葉を手渡し
釣りはいらない早く開けてくれといって開かれたドアから降りるとすぐに駆け出した。

――小鳥「プロデューサーさんは昨夜、自分の足で立てないくらい酔っ払ってたの」

――小鳥「まぁ、それで先輩の義務としてきちんと家まで送っておかなきゃいけないでしょ」

P「響――」

――小鳥「ベッドまで運んで寝かせようとすると、プロデューサーさんは『響』って繰り返してて」

P「響――」

――小鳥「そんなに響ちゃんの事が気になるの? って私が聞いたら
     
     プロデューサーさん、いきなりワッと泣き出して

     おれもほんとうは響のことが好きなんだプロデューサーじゃなかったらどんなに良かったか

     とそれからずっとわぁわぁ泣き続けて介抱するの大変だったんですからね?」

P「響!」

――小鳥「ねぇ、プロデューサーさん、自分の本当の気持ちを伝えておかないと後悔しますよ。

     だから、しっかり伝えてあげて下さい」

おれが響の階まで一気に駆け上ると、大勢の荷物を抱え
傍らにイヌ美を従えて部屋の前に立つ響がいた。

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 12:53:18.11 ID:w59EDYN50
響「プロデューサー…?」

響「そうか…見送りに来てくれたんだ。な、イヌ美…挨拶して…」

響はおれから顔を伏せるとイヌ美の頭を撫で
イヌ美はばうっと嬉しげにおれに吠えた。

響「ありがとう、ね…。自分、は、…それだけで、嬉しいさー…」

そして響は荷物を抱えてよろよろとおれの横を通り過ぎた。

階段を駆け登ったのと今まさに東京を去ろうとする響の姿を
目のあたりにした衝撃のあまり、おれは動悸を激しくさせて
思うように声が出せなかった。

響、待ってくれ、響。おれは。

ところが響の足を止めたのはおれの声ではなかった。
響の忠犬、セントバーナードのイヌ美がおれに訴えかけるような眼をして
突如、その場に座り込んだのだった。
そして響にばうと吠え、おれを振り返り、尻尾を振った。

響「イヌ美!? もう行くんだぞ!」

響はイヌ美を引っ張ろうとするがイヌ美はおれに視線を向けたまま動かない。

ありがとう、イヌ美。

P「響。大事な話があるんだ」

114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 13:30:15.91 ID:w59EDYN50
呼吸を整えながらおれは響にゆっくりと近付いていった。

P「一昨日の夜、響がおれに好きだと言ってくれた時」

P「おれは、プロデューサーだから響の気持ちには応えられないと言ったよな」

P「そう…プロデューサーだから、って…な」

P「ははっ…泣き腫らした…ひどい顔だ…」

響の近くまで来て、立ち止まると、おれは響の一晩中泣き明かしたに違いない
瞼の脹れをみとめ、涙が出てきそうになるのを堪えて、響の肩を掴んだ。

P「響…。おれの…顔を見てくれ…。お前と同じような…ははっ…ひどい顔をしているぞ…」

響「プロデューサー…。なんで…? なんで泣いていたさ…?」

響はおれの顔を見ると、びっくりして小さな声で

響「プロデューサーが泣くっておかしいよ…。だって…プロデューサーは小鳥と…」

おれは大きく首を振って否定した。
そして、出てくる嗚咽を噛み殺しながら、おれはいった。

P「違う、違うんだ。小鳥さんの前でおれはずっと泣いてたんだ」

P「おれは響が好きだったんだ。おれも響の事がたまらなく好きだったんだ」

117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 13:56:42.22 ID:w59EDYN50
P「ずっと前からおれは響に惹かれていた」

それから後は洪水のように、おれの本心が溢れ出て止まらなかった。
ずっと前から響に言いたかった事、伝えたかった事。

P「響に質問されたら…おれは何でも…答えてきただろ」

P「あれは響におれの事をもっと知ってもらいたかったし、何より、響の前だと素直になれたんだ」

P「でも…心の中のどこかで自制心があって…プロデューサーと…アイドルだから」

P「響とは恋仲になっちゃいけない、と…おれは自分の気持ちを知らない内に殺していたんだ」

P「そして…良いプロデューサーになろう…と合理的に考え行動してきたつもりだった」

ついに涙がとめどめなく溢れ出てきて
今やおれは嗚咽しながら声を振り絞っていた。

P「けれど…響を傷付けているプロデューサーとしての自分が許せなかった。憎かった」

P「響…おれはお前に近くで笑顔を見せてくれないと不安なんだ」

P「だから…沖縄に帰る…なんて言わないでくれ…」

P「お願いだ。おれとずっと…ずっと一緒にいてくれ」

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 14:25:42.50 ID:w59EDYN50
響「プロデューサー…」

響はぽろぽろと大粒の涙を流して、おれにいった。

響「本当に自分でいいのか…? 自分、嫉妬深いぞ…」

P「響しか見ない」

響「急に機嫌が悪くなったりするし…」

P「機嫌が直るまで頑張る」

響「自信のあるメニューは沖縄料理ぐらいしかないぞ…」

P「毎日でも食べる」

響「ペットがいっぱいいる」

P「おれも一緒に面倒を見る」

響「プロデューサー…! 本当に、嬉しいっ! 夢みたい…こんなこと…」

P「はは…嬉しいのに…泣くのか…」

響「プロデューサーだって…泣いてるじゃないか」

それまで足元でおれたちを見守っていたイヌ美がばうと吠え
やれやれとばかりに響の部屋の前にのそのそと移動して座り
おれたちを見上げて、部屋に戻ろう、と催促してきたので
おれと響は顔を見合わせて、笑った。

134: 次でラストです 投稿日:2012/08/13(月) 15:08:16.78 ID:w59EDYN50
P「本当に、沖縄に帰るつもりだったんだな」

部屋に幾つかの密閉された段ボール箱が置かれているのと
空白になった食器棚や箪笥の数々を見ておれは心を痛めながら響にいった。

響「うん…後は業者に連絡して大きな荷物とかを運んでもらおうと思ってたさ」

P「そうか…荷物を元に戻すのをおれも手伝うよ」

響「…うん!」

P「ああ…後、ついでにな。小鳥さんから、再出勤は午後からでいいと言われたんだ」

と、おれはベッドをちらりと見ながらいった。

P「響は昨日、この引っ越しの準備であんまり寝てなかったんじゃないか」

P「おれも昨夜は泣き通しであんまり眠れなかった」

P「荷物を戻すのは、今夜から手伝うから、今は疲れを取りたいかな」

響「…! そーいうの自分たちにはまだ早いと思うぞ!?」

響はベッドを見るおれの視線に気付き、顔をぶんぶんと振ったが
段ボール箱を剥がす作業の途中におれを振り返り、ぽつりといった。

響「キス…をまだしてないから、キスだけならいいぞ」

結局、おれたちは三時過ぎに出社して
小鳥さんと社長からおれは大目玉を喰らう羽目になった。

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 15:59:17.86 ID:w59EDYN50
初日のベッドの中でおれたちはこの関係を発表してもいい時期になるまで
皆に隠し切ろうと誓いのキスを交わし、響も「自分、隠し事も完璧だからな!」と
のっぴきならない事を言ったが翌日から出社するおれたち二人の態度の変わり振りを
見れば何かがあった事ぐらい他のアイドルたちにとって一目瞭然だったようで
たちまちに関係が露見され社長の耳にも入る事となり
罰としておれを掘るどうしても掘らなければならんだのの話に
エスカレートしかけたところで小鳥さんのフォローと響の必死の訴えによって
マスコミに悟られなければ付き合ってもよろしいと許され
765プロにおいて晴れておれと響は恋人同士だと認められることなった。


その夜に響のマンションに行ったおれは響とイヌ美の散歩に出掛け
二人でイヌ美がいなかったらどうなっていたかなどを思い出し微笑し合いながら
イヌ美の背中を見守っていたが途上で響がぽつりといった。

響「これからは…プロデューサーとちゃんとした恋人になれるんだね」

P「ああ…まだまだ至らないところもあるけど。マスコミ対策とかも含めて頑張るからな」

響「大丈夫さー! プロデューサー!」

響「あのね…切っ掛けはね…友達から始まったけど…」

響「自分、完璧だからな! プロデューサーと恋人同士でもなんくるないさー!」

と、響はおれに愛くるしい八重歯を見せて、そう破顔したのだった。

151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/08/13(月) 16:54:34.83 ID:w59EDYN50
>>144
どうもです!

>>145
確かにもう少し短い方が読みやすいですよね。
頑張って短くします。

>>146
すみません! この反動で次はエ○を書きたいんです!
貴音と響は好きなので二人の絡みには今度挑戦しようと思っています。

>>147
確かにそうですね…。本文におわりを付け忘れてしまいました。
呼称についても最初のうちはピヨコと呼ばせてもよかったかもしれません。
自分のイメージとアイマスのもともとのイメージがブレないように頑張ります。

>>148
サンクス!

>>149
ファッ!?

>>150
書き溜めを増やしたり文章を読みやすい量に区切って投下してみます。
次も満足させられるように頑張ります!

皆様、今回はスローペースですみませんでした。
また何かで立てると思いますのでその際に需要があれば是非とも御付き合い下さい。

では、おやすみなさい。

引用元: 響「プロデューサー! 自分、友達が欲しいぞ!」